「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

八月十四日(木)

一目で、どう見ても容態が悪化してきている事が分かる。それも著しく。見るに堪えない。ぺいの名前を口に出す事さえ躊躇してしまう。なぜなら、名前を呼べば気を遣わせてしまって、負担を掛けてしまうからだ。それでも、小さい声でやさしく呼んでみる。やっ…

八月十三日(水)

夜、またぺいを廊下に出してやろうと思って玄関のドアを開けてやった。いつもなら直ぐ外に出て行こうとする。でも、今日は、ドアが開いた事は、目で見て認識出来ているのに出て行こうとしない。あれほど興味があった世界なのに、もう満足したのだろうか?も…

八月十二日(火)

夜、洗濯をした。洗濯機は昔ながらの二槽式を使っている。単に壊れないから二十五年ぐらい使い続けているけど、二槽式の洗濯機は、簡単に洗濯漕の中に水だけ溜めた状態に出来る。この日、洗濯機をそんな状態にしてパソコンに向かっていた。すると、突然、「…

八月十一日(月)

朝、起きてみると、部屋の床に長さ一センチぐらいの小さな糞が落ちていた。ぺいの糞だ。深夜、動くのも辛くてトイレに行けなかったのだろう。固形の糞だったので臭いもなくて良かった。それにしても、部屋に糞をするなんて初めての事だ。ぺいは我が家にやっ…

八月十日(日)

休日なので母が来た。最近、毎週、水曜と日曜には、欠かさずぺいの様子を見に来てくれている。母は、電車で何度となく通院させていたら情が移ってしまったようで、以降、ぺいの様子が気になって仕方がないと話してくれた。正直、そう言ってもらえると凄く嬉…

八月九日(土)

いつも通りに仕事を終えて帰宅。部屋で暫く過ごした後、あらためて外出しようと玄関に向かった時だった。少し床面に違和感があった。何かと思って近寄ってみると、血や腐敗したものが床面に付着している。これは、少し前、ぺいが横たわっていた場所だ。下顎…

八月八日(金)

帰宅してみると部屋の中にぺいの姿が見当たらない。あれ?どこに行った?探してみるとバスルームの中に姿があった。バスルームの床の上で横たわっている。声を掛けても全く反応しない。頭の中を嫌な予感が過ぎった。でも、近づいて良く見てみると大丈夫そう…

八月七日(木)

今日もぺいとスキンシップ。退院以降、特別に始めたスキンシップは、毎日、大体、夜の十二時前後から三十分程というのが日課になっている。私は、今日も、いつものように、ぺいの名前をやさしく呼びながら首周りや体を撫でてやった。すると、尻尾を振ってく…

八月六日(水)

私の家は、ペット禁止の賃貸マンションであり、猫が人目に触れると拙い。だから、過去の話ではあるけども、ぺいと暮らし始めてからの数年間は、部屋の外には一切出さないようにしてきた。でも、ぺいは、部屋の網戸の内側から外の様子を度々眺めていた。そし…

八月五日(火)

既に下顎は腐敗で全て失われている。そして、一時止まったかのように思っていた腐敗は、いよいよ喉にまで達してきた。首には、大きな血管がある。もし、これから先、動脈に癌が達して血管が破れてしまったら大量出血するのではないだろうか?どれほど猫に血…

八月四日(月)

以前にも増して舌の状況が悪化している。下顎がなくなった関係で舌を思ったように動かせなくて辛そうだ。喉も渇いて辛いだろう。癌で手術するまでは、水を飲む時、お風呂場の水道の蛇口に舌をつけて飲んでいる事が多かった。でも、今は、その蛇口に舌をつけ…

八月三日(日)

もう季節は完全に夏。そういえば、八月に入った頃から、あれほど臭っていた腐敗臭が急に消えている。それで、ぺいの様子を見てみる。下顎は完全になくなっている。そして、癌による腐敗は、ほぼ、喉にまで達している。私は、もしかしたら、下顎の組織と喉の…

八月二日(土)

母が再び蝉を捕まえてきた。でも、今日のぺいは、全く興味を示さない。そうこうしているうち、母は、ぺいが歩いている時、蝉をぺいの背中の上に乗せた。折角、捕まえてきた訳だし、そうすれば、少しぐらい蝉の相手をすると思ったに違いない。それで、その蝉…

八月一日(金)

本当に無情だ。日に日に下顎の腐敗が進んで、ほとんど喉にまで達している。もし、このまま腐敗が止まらなかったら舌が根本から抜けてしまうのか?もし、舌が抜けたとしたら生きてゆけるのか?舌がなくなったら気道に湿りっ気のない空気がストレートに入って…

七月二十八日(月)

癌の浸潤が影響しているのだろうか?目ヤニ以外にも、鼻の穴にも汚れた鼻水が固まって黒い瘡蓋が出来ている。黒い目ヤニと、鼻の穴の黒い瘡蓋。そしてもう、既に下顎は完全になくなって、舌は下向きに反り返って、完全に外気に触れている。本当に酷い状態で…

七月二十七日(日)

また、母が蝉を捕まえてきた。今年は、我が家に来るたび大体捕まえてくる。それにしても、今日、捕まえてきた蝉は、特に元気が良い。ただ、ついこの前までは、あれだけ目の色を変えて無邪気に遊んでいたのに、今日は遊ぶ時間が極端に少なかった。二、三回だ…

七月二十六日(土)

ついに、下顎の左側は、全て腐敗で消失してしまった。右側は、左側に比べれば進行は遅いけど八割ほど消失している。それと、ぺいが寝ているときに口の中を見てみると、右側に何か白い棒状のものが突き出ている事が分った。いったいなんだろう?パッと見ただ…

七月二十一日(月)

ぺいが食事をする場所には、姿見用の鏡が置いてある。だから、食事をする時、鏡に映るのは自分の姿だという事も、鏡に映るのは、自分の後方の景色だという事も良く分っている。だから、鏡越しに私の様子を観察するという事も良くあった。ぺいは、今、癌にな…

七月二十日(日)

今日は、ぺいとずっと一緒に過ごせる日。休日だ。そんな訳で、自宅にいると母がやって来た。母は、ぺいの事が気になるようで、ぺいの退院後も、だいたい週に二回、様子を見に来るようになった。ところで、数年前の事になるけど、母が、蝉を捕まえてきた時、…

七月十七日(木)

寝るとき以外の時間、窓を常に開けっ放しにしていると、蛾とハエが入ってくるようになった。蛾は、日常生活では全く見かけなかったから、初めて蛾が部屋の中に入ってきた時は、一体どこから?と思った。ちなみに最初に部屋の中に入ってきたのは蛾の方だった…

七月十五日(火)

猫は、頭が水に濡れた時、自分自身の頭をブルンブルンと振り回して水気を振り払うけど、最近、それと同じように涎を振り払うようになった。涎には粘性があって、下に落ちる時、ツーっと長くなる。それが、鬱陶しいのだろう。でも、ブルンブルンという動作を…

七月十三日(日)

我が家には、以前から空気清浄器が二台あって、それらを二十四時間、作動させている。それでも、下顎の腐敗が進むにつれて、何とも言い難い臭いが部屋中に充満してきた。私は、設置型の大きい消臭剤を四つ買ってきて、部屋の中に万遍なく置いた。もちろん、…

七月十二日(土)

ついに下顎は、先端から六割ほどが腐敗してなくなってしまった。歯が抜け落ちたのが、六月の二十二日だった。まだ、あれからたったの二十日しか経っていない。それなのに六割もの顎の肉が既に腐敗してなくなってしまっている。あまりにも早い。早すぎる。舌…

七月十一日(金)

下顎の腐敗が進んでいる。そして、腐敗した細胞は、膿になり血や涎と混ざって口から少しずつ滴り落ちている。それにしても、腐敗が信じられないほどのスピードで進んでいる。手術するまでの間、癌は大きくなる一方だった。そして、先生から手の施しようがな…

七月十日(木)

仕事から帰宅してぺいの顔を見ると、左目から何やら汚れたような涙が出ている。ティシュで拭き取ってみると、案の定、ティッシュが少し黒く汚れた。涙自体が汚れている。一体何なんだ?その目の周囲には、汚れた涙が固まって目ヤニになっている。それは、癌…

七月九日(水)

なぜか急にトイレの回数が多くなっている。普段と比べると十倍近い。でも、回数が多い分、一度に出る糞尿の量は十分の一程度。便は軟便気味だ。癌が本格的に痛みだして、少しの便意や尿意に耐える余裕さえなくなってきたのだろうか?原因が、さっぱり分から…

七月二日(水)

どれくらい昔からだったろうか?気がつけばという感じだったので、いつの頃からかは、正確には分からないけど、ぺいは、毎日、お湯の入っていない空のバスタブの中で過ごす事があった。バスタブの中で別に寝る訳ではない。おそらく、狭くてヒンヤリしている…

七月一日(火)

この日も私が寝ようと準備を始めると、ぺいは、昨日と同じ足元側のベッドの端で寝始めた。寝る場所、変えたのかな?ずっと、一緒に寝てきたのに・・・。本当なら私と一緒に寝たいはずなのに・・・。私の顔の近くで寝ると迷惑を掛けるという事に、気付いたよ…

六月三十日(月)

今夜も、我慢して寝るしかない。そう思いながら布団に入った。ぺいは、いつもと同じように枕元で寝始めている。私は、昨日と同じようにマスクを二重にして、ぺいに背を向けて寝る事にした。それにしても臭い。これは、耐え難き臭さ。本当に困った。どうしょ…

六月二十九日(日)

昨日から始めたマスク。今日もマスクをして寝る事にした。でも、ぺいからの臭いが、さらに強烈になってきた。昨日は、効果のあったマスクなのに、今夜は、殆ど効果がない。マスクで防げたのは、たったの一晩だけ。そんなのあり得ないと思った。だけど、それ…