「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

出会い

それから数か月後、私は、引っ越しを決めた。ただ、引っ越しの理由に猫の出来事は全く関係なかった。マンションが電車の高架橋の隣に建っていて、住んでいる階の高さも高架橋と同じ高さで凄く音がうるさかったというのが一番の理由だった。でも、引っ越し先の住居も、ペット禁止の賃貸マンションで、平成十三年、三十一歳の時に引っ越した。当時は、ペット可の賃貸物件など全くなかったように記憶している。そうして、その後は、新しい住居での暮らしにも慣れ、二年ほど経過した頃、とにかく無性に猫を飼いたいと思うようになった。この頃は、社会人生活にも慣れて金銭的精神的にも余裕が出てきた頃で、だから、ずっと我慢していたものが抑えきれなくなっていたのだろう。それと、時々、ペット禁止なのに内緒で飼っているという人の話を、耳にした事もあった。もし、猫を飼ったら部屋の中がどうなるかなんて考えだしたらきりがないし、飼うことも出来なかったと思う。もう我慢出来ないという感じだった。もし、猫を飼って部屋に何かあったら弁償するしかない。もし猫を飼っている事を指摘されて、部屋からの退出を命じられたら出て行くしかない。でもそんな事は、二の次三の次で、とにかく猫を飼いたいという気持ちで頭の中がいっぱいだった。ちなみに、飼う猫の種類は、大方、アメリカンショートヘアにしようと思っていた。それは、雑誌などを見て一番好きだったからだ。そんな訳で、私は、休日、猫を飼うことを決意して某ペットショップに向かった。

 

自宅の最寄り駅から電車に揺られる事、約一時間、お目当てのペットショップがある駅に到着した。都会で、わざわざ一時間も電車に揺られて、なぜ、このペットショップなのか?それは、昔、仕事で飛び込み営業をしていた時、ふらっと休憩がてらに入店した事があって、その時、たくさんの猫がいる事を知っていたからだ。私は、早速目的のペットショップを目指した。すると、その途中には、別の小さなペットショップがあった。入ってみると、店内に猫は数匹。アメリカンショートヘアは一匹。すやすや寝ている。ただ、この店は、元々目指していた店ではなかったので、とりあえず目的の店に向かうことにした。そしてまた少し歩いていると、また別のペットショップがあった。この店も一件目と同じぐらいの小さな店。この店にもアメリカンショートヘアは一匹。一件目と同じように寝ている。二件とも、お目当てのペットショプではなかったけど、一旦、どちらの猫の方が良いか考えてみようと思った。なぜなら、一番に気に入る猫を見つける事が重要であって、別にペットショプに拘る必要なんてなかったからだ。それで、あらためて最初の店に戻ってみた。すると、なんとなく二件目の猫の方が良い気がした。どちらの猫も相変わらず寝ていて良く分らないけど、どちらも温厚で大人しそうな気がした。そして、そんな猫との生活が理想でもあった。

 

再び、本来のお目当てのペットショップに向かった。一件目と二件目は、それぞれアメリカンショートヘアは一匹ずつだったけど、お目当てのペットショップでは二匹と出会えた。新しく出会った二匹。どちらにするか決めなければならない。まずは一匹目、ゲージの中で元気に動き回っている。そして、しきりに目線を合わせてくる。自分の存在を、とにかくアピールしているようだ。次に二匹目、一匹目と比べれば少し元気さの部分では劣るような気はしたけど、二匹目も普通に元気な猫だった。一件目と二件目は、大人しい猫だった事もあって、この店では、元気な猫の方が印象に残った。

 

そうして、二件目の大人しそうな猫と、三件目の元気な猫のどちらかにしようと思った。とりあえず、もう一度、大人しそうな猫を見に行く事にした。でも、もし、その間に、元気な猫が売れてしまうと困ってしまう。私は、店員さんに購入するかもという意思を伝えてキープをお願いしつつ二件目の店に戻った。やっぱり大人しく寝ている。目は相変わらず一度も開けてくれない。そんなもんだから元気なのかどうかさえ良く分らない。ただ、もし、この猫と暮らせば平凡で静かなペットとの生活がおくれそうだ。そんな気持ちで店を後にした。そして、また、三件目の元気な猫に会いに戻った。相変わらず元気だ。この時点で消去法により気持ちは元気な猫の方に傾いた。ただ、これから本当に長い付き合いになる。だから、しっかり熟慮して決めようと思った。そんな訳で、今度は、あらためて最初の一件目から見て回ることにした。一件目、二件目、そして、また元気な猫の店。三件目の猫は、相変わらず元気だ。私に目線を合わせて、一生懸命、自分をアピールしているかのように思えた。私は決めた。やっぱり元気に越した事はない。元気な方が長生きしてくれるだろう。この猫にしよう。この猫しかいない。そう決めた。今でも、あの時の光景は鮮明に頭に残っている。