「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

嘔吐入院

それから、約四か月が経った。季節は五月の後半。比較的過ごし易い時期のはずだけど、気温の変化は大きかったように思う。そんな週半ばの水曜日、またしても、ぺいが嘔吐した。実は、確か五歳を過ぎたぐらいの頃から、時々、嘔吐するようになっていた。ただ、嘔吐の回数は多くても三回程で、その後は、いつも自然に回復してきたから、また今回も同じだろうと思っていた。翌日の木曜日、まだ嘔吐が止まらない。いつもと違う。少し変だと思った。そして、最初の嘔吐から三日目の金曜日、症状は全く改善しそうにない。木曜日の時点で嘔吐するものがなく胃液だけ吐いている状態だった。それが、金曜日には、もう吐ける胃液なんてないのに、胃から何かを絞りだすように全身を使って空の嘔吐をしている。とても苦しそうだ。明らかに異常だ。でも、仕事の関係で平日に病院につれてゆく事は難しい。そうして、四日目の土曜日になった。私は、朝一番に動物病院の入口に立って開院するのを待った。そう、一分一秒でも早くお医者さんに見てほしかったのだ。そして、真っ先に診察してもらった。すると、四十一・五度。それは、何と、ぺいの体温。猫の平熱が何度ぐらいなのかは知る由もなかったけど、先生曰く、人間と比べると一度程、高いとの事。そして、先生からは、「このままだと命が危ないです。今すぐ入院させて下さい」と説明があった。命が危ない!まさかそんな状態だったとは・・・。私は、即答で、「はい、お願いします」と動揺しつつ答えた。それにしても、ぺいちゃん、お前、そんなに熱があったのか?嘔吐以外にも高熱、そんなに苦しい思いをしていたのか・・・。気づいてやれなくて本当にごめんな。三日間も我慢させてごめんな。心から申し訳なく思った。そう、平日だって少し無理をすれば、もう少し早く連れて来る事も不可能ではなかった。だから、なおさらだった。これからは、どんな事でも少しでも変だと思ったら、とにかく早めに病院に連れてこよう。大切なぺいなんだから・・・。私は、そう強く心に誓った。入院は、ひとまず丸三日間だそうだ。あぁ~、ぺいちゃん!頼む、頼むから元気になってくれ。ぺいを病院に引き渡すと同時に、祈るように元気になってほしいと願いながら一人自宅に戻った。部屋には、いつもいるはずのぺいがいない。静かでさびしい。そして、夜になった。あぁ、今頃、ぺいは、どうしているだろう?熱は下がったかな?峠は越えたかな?命は大丈夫か?色々な事が気になって仕方ない。もちろん外泊も入院するなんて事も初めて。そうして、いつもの寝る時間。今頃、ぺいも寝る頃かな?どうしているかな?いつも寝る時間が一緒だったから、そんな事を思った。ぺいも初めての外泊で心細いだろう。その後の体調や様子も気になる。そういえば、事前に電話をすれば面会出来るという事も確認済だ。予定通り、明日、仕事が終わったら面会に行こう。今一度、そう心に決めて部屋の明かりを消した。

 

そうして翌日。私は、仕事を定刻きっちりに終えて病院へと急いだ。病院には、事前に面会したい旨を電話で伝えてある。とりあえず、その時、熱は下がった事を聞いていたので、少しは気持ちが楽になっていた。でも、ぺいに早く会いたい。どうしているだろう?少しでも早く会ってぺいの不安を少しでも和らげてあげたい。そんな事を色々考えながら病院に辿り着いた。早速、病院の受付で面会の受付を済ませた。すると、直ぐに病院の一番奥にある入院用のゲージが並んだ部屋に案内された。部屋の入口に立つと、とあるゲージの中にいるぺいの姿が目に飛び込んできた。おぉ~ぺいよ~と思いながら、そのゲージの前に立った。ぺいは落ち着かなくて興奮気味だ。当然だろう。いきなり全く見ず知らずの人に預けられて、この先、どうなるのか?どうされるのか?不安で仕方なかったに違いない。私は、ぺいの名前を呼んでみた。すると、ぺいは、落ち着かない様子ながらも私の方に顔を向けてくれた。そして、目と目が合った。この時、ぺいの気持ちを手に取るように感じる事が出来た。まさしく目と目で通じ合う、そんな感じだった。「あっ、また会えた。安心していいんだ」そんな気持ちが一瞬で伝わってきたのだ。

 

それから、入院する事、丸三日。予定通り無事退院の日を迎えた。入院一日目に、一度、面会で会って以来だから二日ぶり。暫くぶりに会えることが凄く楽しみだった。そして、二日ぶりに会えたぺい。もう、普通で元気そうだ。でも、数日間に及んだ点滴や注射の跡が凄く痛々しい。だけど、元気になったことが何より嬉しい。私は会計を済ませると、「ぺいちゃん、一緒に家に帰ろ~」と、ぺいに声を掛けて病院を後にした。数日ぶりに自宅に戻ってきたぺい。私は、ぺいを抱き抱えた。いつもなら抱いてくれと要求されてから抱えるようにしているのだけれど、この時ばかりは、自分の気持ちを優先したかった。でも、抱こうとすると、ぺいも、私の気持ちと同じだったようで、私の胸の中に飛び込んできた。そうして、暫く抱いていると、何と、いびきをかきながら胸元で寝てしまった。もちろん、いびきをかきながら胸元で寝るなんて初めてだった。入院中は不安で寝不足だったに違いない。きっと、住み慣れた家で、いつものように私に抱かれて、心から安堵出来たに違いない。私は、ぺいが胸元で寝てくれた事が本当に感無量だった。

 

 それから、さらに時は流れ半年。その後のぺいの体調は順調で、特に問題もなく年の瀬を迎えていた。この年は、スマホアプリで一筆書きにヒントを得たゲームが流行った。それで、私も友達と点数を競っていた。そしてとある日、私は、ベッドの上でゲームをしていて、ゲームの画面が表示された状態のままのスマホをベッドの上に何気なく置いたことがあった。すると、ベッドの上にいたぺいがゲームの画面の中で動くものに関心を示した。そして、動いているキャラクターの動きに反応して、手でスマホの画面の中にいるキャラクターを触ったり、画面を見つめたりしている。私は、おぉ~、これは最高に癒される。贅沢極まりない光景だと思った。そして、直ぐにデジカメを用意してゲームで遊ぶぺいの写真を何枚も撮った。本当に可愛い。なんて癒されるんだろう。ぺいは、二月生まれだから、まもなく十一歳。猫の平均寿命は、十五歳ぐらいだろうから、この調子だと、きっと、あと、三、四年は大丈夫だろうな。そんな事を思った年の瀬だった。

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