「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との戦い~

2014年3月 愛猫「ぺい」に、突然、癌が宣告されました。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見て頑張った記録です。
事実を、感じた事を、ありのままに全て残すことにしました。

三月九日(日)

 朝、電話が鳴った。病院からだ。何だろう?検査の結果は出るはずがない。そう思いつつ電話に出てみた。すると、なんと検査の結果が出たとの事。私は、「あれ?土日に検査結果が出る事はなかったのではないですか?」と聞いてみた。すると、「昨日、夜に結果のFAXが来てまして…」との事。はっきり言って週明けになると思って苛立ったのがバカみたいだ。でも、月曜日まで待つことなく、ちょうど一週間で結果が出た。些細な事だけど、ホンの少しだけツイテルと思った。「猫を一緒に連れて行った方が良いですか?」と聞くと、「どちらでも大丈夫です」との事。では、「とりあえず連れて行きます」と答えて、早速、病院に行く事にした。

 病院に到着して暫くすると名前が呼ばれた。何とも言えない緊張。癌なのか良性の腫瘍なのか?それとも別の何かなのか?物事は、なるようにしかならない。それにしても、もし本当に癌だったとしたら、最初の検査結果は、一体、何だったんだという事になる。とにかく運を天に任せるしかない。最悪のシナリオを想定して診察室の扉を開けた。そして、検査結果のFAXを受け取った。続けて先生の口から発せられた言葉が耳に入ってきた。「やはり、扁平上皮癌でした・・・」私は、少し沈黙した。正直、覚悟はしていた。でも、もしかしたらと、心のどこかで希望を持ち続けていた。本当の本当に癌なんだ・・・。はっきり言ってショックだった。診断書を見てみると、“歯肉部扁平上皮癌(中等度悪性)。検査標本では、非角化型優位の浸潤性扁平上皮癌が検出されました。切除可能であれば、積極的治療(外科的切除)が勧められます。また、下顎・浅頚リンパ節への転移にも注意して、万一これらの付属リンパ節が腫大した場合には、転移を想定してください。”と、書かれている。私は、そうか、やはりそうなのかと考えていた。そして、先生に質問した。「どうして最初の検査の段階で分らなかったのでしょうか?」と。すると、「表面でなく奥の方にいる癌細胞は、なかなか採取出来るものではないですから!」と、少し焦ったような口調の説明を聞いた。正直、素人には、本当にそんなものなのか、さっぱり分らない。でも、もし、本当に、そうであれば、私が、ぺいを病院に連れてきたタイミングが早すぎた!という事になるのだろうか?もし、最初の検査の日が、あと十日遅かったら、腫瘍は、もう少し大きくなっていただろう。そうすれば、最初から癌細胞を採取する事が出来たかもしれない。なるべく早く早くと、そう思って行動した事の結果が、結局、裏目に出てしまったのか?どこか上手く噛み合っていかない運命の歯車。一体、どうすれば一番良かったのか?とにかく、本当に扁平上皮癌なんだという事が分った以上、一刻も早く手術をしなければならない。ぺいと別れたくない。まだ一緒にいたい。つい数か月前の年末に、きっと、あと、三、四年は一緒に暮らせるだろうなと思ったばかりだ。それなのに、あまりにも突然の余命宣告。心の準備だって出来ていない。そんな急な別れなんて受け入れられるはずもなかった。私は、「明日、T動物医療センターの予約をお願いします」と先生に伝えた。そして、「それでは、明日、朝一番に予約の電話を入れてみます」との返事をもらい病院を後にした。

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 自宅に戻り、夜の九時頃、母に電話する事にした。そして、ぺいをT動物医療センターに入院させて手術するという事について話した。すると、母は、「どれぐらい治療費が掛るの?」と聞いてきた。当然の質問だろう。私は、先生から目安として聞いた金額を伝えた。「大体、百万円ぐらい掛るみたいなんだけど・・・」すると、「猫に、そんなにお金を掛けるなんて信じられない。あなた頭がおかしくなったんじゃない!」と、かなり興奮気味に直ぐに考え直すようにと言わんばかりの反応が返ってきた。普通に考えれば、その通りなのかもしれない。でも、私にとって、ぺいは、猫の姿をしているだけで、自分と全く同じ、そう、自分の分身のような、そんな存在に他ならなかった。正直、手術をするかしないかを検討する時、少しは治療費の事も考えた。でも、所詮、猫だからとか、ペットだからとか、どうしても、そういう割り切りが出来なかった。とりあえず、とにかく手術さえすれば延命させられる。確実な事は、手術をしなければ直ぐ死んでしまうという事だった。お金は幾ら失ったとしても後で取り戻す事が出来るではないか?でも、命は、失ったら二度と取り戻せない。取り戻せるものと取り戻せないもの。どちらを大切にすべきか?もし、極僅かでも助けられる可能性のある命を、お金を惜しんだがために失ったとしたら絶対に一生悔いが残ってしまう。それは、自分が大好きなぺいを殺す選択をする事と同じ事だと思った。ぺいが嬉しいと私も嬉しい。ぺいが辛いと私も辛い。早く痛みから解放されたい。早く元気になりたい。また美味しいものを食べたい。そういった思いや気持ち。ぺいの事にお金を使うのは、自分の事にお金を使うのと全く同じだった。でも、母には、そんな細かい事までは伝えなかった。こればっかりは、なかなか話しても理解を得られないと思ったからだ。とにかく多額の治療費を掛けて入院手術をする事だけを伝えて電話を終えた。

 そうして、電話を終えて暫くすると、ぺいがスキンシップを求めてきた。スキンシップは、昔は、毎日恒例だったにも関わらず、涎が出るようになってからはパタっとなくなっていた。多分、涎が出ていると、私に嫌がられると思っているに違いなかった。ただ、数日前から、時々、涎が一時的に止まる時や、止まる日があって、その時に限ってスキンシップにきた。ただ、それでも、お決まりだったスキンシップ前のキスだけは、涎が止まっていてもなかった。ぺいは、きっと、自分の口が拙い事になっている事を知っているのだろう。ぺいの行動を見ていると、自分自身の気持ちよりも、私に少しでも迷惑を掛けないように気を遣ってくれている事が手に取るように良く分った。そして、ぺいは、スキンシップの後、私の足と足の間を掻き分けて、足に挟まれた狭い場所で寝始めた。こんな事は初めてだ。今日は癌という事が分った日。そして母に手術をする事を伝えた日。偶然かもしれない。でも、私には、どうしても偶然には思えなかった。ぺいは、自分の状況を察している。そして、私が思っている事も察している。だから、これからもずっと一緒にいたい。助けてほしい。きっと、そんな気持ちを私の身体に密着して伝えたいに違いない。そう思えた。足元で眠るぺいの姿と感じる体温。この日、私も、ぺいの気持ちを確かに受け取った。

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