「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

七月十一日(金)

下顎の腐敗が進んでいる。そして、腐敗した細胞は、膿になり血や涎と混ざって口から少しずつ滴り落ちている。それにしても、腐敗が信じられないほどのスピードで進んでいる。手術するまでの間、癌は大きくなる一方だった。そして、先生から手の施しようがないと言われた時、これから先、顔全体が癌の腫瘍で覆われて膨れてゆくものだと思っていた。だけど、今度は、腐敗して逆に細胞が失われてゆくというのか?口から滴り落ちるものの大半は、布のハンカチを三角に折って涎掛けにするというアイデアで、涎掛けが受け皿の役目を果たしてくれている。ただ、付着する量が多くて、朝と夜、一日二回、取り替えなければならない。ちなみに、涎掛けで受けきれなかった涎は、そのまま部屋の至るところに落ちることになる。床に落ちている場合には、後で拭きとれば良いけど、布団の上に落ちたら厄介だ。だから、五月の後半頃から布団の上には、タオルを敷き詰めるようにしてきた。ただ、腐敗が進むにつれて滴り落ちる量が凄く多くなってきたので、タオルを一枚敷き詰めた程度では、その下の布団にまで染みてきそうになった。私は、さらに、タオルを二重三重に敷き詰めて布団に染みないようにした。

 

ところで、涎などが付着したタオルは、膿の臭いが強烈な臭いだ。もしタオルに鼻を近づけようものなら、まず肺の中の空気を全て吐き出して、さらに胃の中の食べ物も嘔吐してしまいそうになる。それほど強烈な臭いだ。だから、毎日、朝と夜には、洗濯した新しいタオルと交換するようにした。当然、洗濯は、ほぼ毎日の日課になった。ちなみに、洗濯するにも苦労が多い。たとえば、強烈な腐敗臭のするタオルは、とてもでないけど他の洗濯物と一緒になんて洗えない。それと、洗剤で洗ったぐらいでは全く臭いが取れない。そこで、洗濯の時間や洗剤の量を増やしてみた。でも、そんな事をしてみても全て焼け石に水だった。そして、試行錯誤して、最終的に行き着いた方法が、漂白剤に数時間漬けておいて、その後、洗剤も入れて三十分ほど洗うという方法だ。さすがに、これ以上に良い方法は思いつかなかった。でも、ここまでやっても、どうしても臭いが残った。だから、これらのタオルをベランダに干していると吐き気を伴う何とも言えない臭いが周囲に漂った。そして、その臭いが風に乗って部屋に入ってくると思わず吐き気がした。もしかしたら、隣の部屋の住人にも気づかれていたかもしれない。とにかく、それほど強烈だったから、洗濯物を乾かしている間は、窓を閉めておいて、さらに、どうしても普通の洗濯物と一緒に干さないといけない場合は、ベランダの端と端、腐敗臭のするタオル類と干す場所を可能な限り引き離して、臭いが極力移らないようにした。

 

それはそうと、この日、郵便受けに水道使用量の検針票が入っていた。使用量を見ると、何と通常の二倍以上だ。そして、漏水などが発生していないかという注意を促す書面も一緒に投函されている。このところ洗濯に水を相当使用しているなという感覚はあったから、それなりに覚悟はしていた。しかし、二倍以上とは良く水を使ったものだ。しかし、こればっかりは、どうしょうもない。