「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

七月二十七日(日)

また、母が蝉を捕まえてきた。今年は、我が家に来るたび大体捕まえてくる。それにしても、今日、捕まえてきた蝉は、特に元気が良い。ただ、ついこの前までは、あれだけ目の色を変えて無邪気に遊んでいたのに、今日は遊ぶ時間が極端に少なかった。二、三回だけ手で突っついて終わり。それだけだった。私と母は、「さすがにもう飽きたのかな?」と話をした。そうして、 二時間程の時間が過ぎ、母が、帰り支度を始めた。「ぺいちゃん、また来るからね~」と、話しながら玄関の方に歩いてゆく。私は、ぺいに対して、世話になった人なんだから、きちんと見送りしないとダメだよという気持ちをこめて、「ぺいちゃん、帰るってよ~」と、声に出した。すると、ぺいは、どれだけ言葉を理解しているのか分らないけど、母の後を追うように玄関に向けて尻尾を軽く振りながら歩いていく。そして、母が出て行くのを見送った。私は、嬉しかった。実は、ぺいが元気な時には、母が帰るからといって、見送りをするなんて事は一度もなかったような気がする。いつも、ベッドの上で寝たままだったり、部屋の中から母が出て行くのを眺めているだけだった。それなのに、今日は、わざわざ歩いて見送りをしたのだ。私は、きっと、母のぺいを思う気持ちが、伝わったからこそなんだろうと思った。もしかしたら、ぺいは、自分の余命が短いという事も悟っているかもしれない。そして、母を見送るぺいの後姿を眺めていると、「ありがとう」という気持ちを伝えているように思えた。