「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との戦い~

2014年3月 愛猫「ぺい」に、突然、癌が宣告されました。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見て頑張った記録です。
事実を、感じた事を、ありのままに全て残すことにしました。

八月六日(水)

 私の家は、ペット禁止の賃貸マンションなので猫が人目に触れると拙い。そういった訳で、ぺいと暮らし始めてから数年間は、一切部屋の外には出さないようにしてきた。でも、ぺいは、網戸の内側から外の様子を度々眺めていて、網戸には外に出たくてかどうかは分からないけど爪を研いだ痕もあった。しかし、ペットは禁止されているので、私は心を鬼にして、外には一切出さないようにしてきた。ただ、外の気持ちいい空気や解放感を感じさせてやりたいなと思う気持ちは大きくなる一方だった。そう言った訳で、ついにとある日、夜の時間に少しだけベランダへ出してやろうと思った。猫を飼い始めて飼っていても大丈夫だという慣れも生じたのだと思う。そうは言っても、もし、ベランダに出している時に両隣の人がベランダに出てきて、その時に猫がニャーとでも鳴いたりしたら、両隣とは薄い仕切り板があるだけだから、猫を飼っている事がバレてしまう。だから、ベランダへ出している時は緊張して神経を研ぎ澄ました。実は、何度となくベランダへ出しているうちに、そんな恐れていた場面が何度か訪れた。そんな時、私は、部屋の中からぺいに向かって小さい声で「ぺい!ぺい!」と呼んで、手招きをして部屋に戻るように必死で合図した。すると、ぺいは、どれだけ理解してるのか分からないけど、大体、部屋の中に戻ってきてくれた。それでも、何かに集中していて戻ってこない時もあったから、そんな時には、大好きなペット用のおやつのカサカサという袋の音を部屋の中から響かせると必ず反応して戻ってきた。そういった訳で、ベランダには、こんな感じでタイミングを見計らって出してやるようになった。ただ、それでも、どうしてもベランダとは反対側にある玄関のドアの外だけには、昼夜を問わず一切出さないように徹底してきた。それは、外の廊下で猫がダイレクトに住人の目に触れると絶対的に拙いからだ。だから、私が部屋へ出入りで、玄関のドアを開けた時に一瞬だけ少しだけ見えた廊下の光景や様子は、ぺいにとっては、ずっと積年の関心事だったと思う。だから、私が帰宅して玄関のドアを開けようとすると、ほぼ決まって、ぺいは、ドアを開けると隙間が少し開いただけで、そのまま隙間からスッと廊下に出ようとする。いつもそんな感じだった。だから、私は、「おっと、ぺいちゃん!ダメダメ!」と言って、ぺいを部屋の方に押し戻すという事が当たり前だった。でも、今、ぺいは癌に蝕まれていて大変な状態になっている。それなのに、相変わらず玄関の外に出たがる。ぺいは、どうしても廊下側の世界を知っておきたいんだろう。そう思えた。私は、ついに意を決してぺいを廊下側に出してやることにした。ただ、夜の遅い時間に、エレベータの動きに細心の注意を払いながらだ。もし、猫を飼っている事がバレると本当に拙い。でも、ぺいの廊下側に出てみたいという気持ち、それを叶えてやれる残り時間を考えたら、どんなリスクがあっても、絶対に願いを叶えてやりたいと思った。そして、いつもなら直ぐに閉じるドアを、開けたままにしていると、ぺいは、ついにスッと廊下側に出た。廊下に出たぺいは、廊下の端から端まで何度となく味わい深く歩いている。歩いている姿は、気のせいか、前から見ても後から見ても凄く嬉しそうに見える。そして、暫くすると、廊下の端にある外の光景が一番良く見える場所に座って、眼下で人や車が行きかう様子を眺めはじめた。興味深々で眺めているように見えた。それにしても、今、夢にまで見たであろう世界を堪能してくれているのだろう。私は、折角なので、周りの景色をもっと良く見せてやろうと思った。それで、ぺいを私の胸に抱えた。すると、力が弱々しいながらも下に降ろしてくれと暴れる。ここは、高い階だから、いくら廊下の上で抱かれていても恐怖心からの抵抗。暴れるという事は、とにかく死ぬという事や、身に迫る危険は怖いという事だ。私は思った。安楽死という選択をしなかったから、今という下顎が失われた辛い状況がある。でも、そんな状況でさえ、とにかく死への恐怖があるという事。そう思うと、私の選択は、やっぱり間違っていなかったんだと思った。もし、生きていたいのに、死ぬのは怖いのに、怖いのは薬で誤魔化して命を強制的に勝手に終了させてしまっていたら、癌が原因ではなく、結局、私が命を奪ったという事になる。そんなのはあり得ない。もし、安楽死という選択をしてしまっていたとしたら、やはり、絶対に後悔しただろうと思った。それは、長年寄り添ってきた、ぺいの気持ち、そんな事も分ってやれていなかったという事を意味する。やっぱり、私の感じた気持ち、そのままの気持ちが、同じように、ぺいの気持ちなんだと、あらためて思った。そうして、時間が過ぎ、ふと時計を確認すると五分ほど経っている。まだまだ、思う存分、ゆっくり堪能させてやりたいのは山々。だけど、あんまり調子に乗っていると絶対に人目に触れてしまう。私は、「ぺい、ごめんね~またね~」と言って、ぺいを、そっと抱えて部屋の中に入った。そして、ぺいを部屋の中に降ろした。気のせいだろうか、ぺいから積年の夢が叶って嬉しいという気持ちが伝わってきたよう気がした。私自身も、自分の事ではないのに自分自身の積年の夢が叶えられた時と同じように嬉しかった。ぺいの喜びは、私の喜び。本当に嬉しかった。それにしても、ぺいを抱えた時、信じられないほど軽かった。見た目も腰骨あたりは、くっきりと骨の形状が浮き出ているし、撫でた時には骨の感覚が手に伝わってくる。確実に体重が落ちている事は明白だ。朝と夜、なるべく多めにシリンジで食事を流し込んでいるのに、どんどん体重が減少してゆく。

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