「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

八月十八日(月)

ますます腐敗が進んでいる。癌は腐敗して居場所がなくなりそうになると新天地を求めて隣へ隣へと浸潤してゆく。そして、元々、全く問題のなかった場所すら腐敗させてゆく。腐敗というよりは溶けてゆくという感覚の方が近い。私の大切な、私の愛するぺいの身体が容赦なく溶かされてゆく。気が狂いそうだ。それと、この日の夜、三か月ほど装着してきた涎掛けを外す事にした。それは、決して涎が止まったからではない。腐敗が限りなく喉にまで侵食してきたからだ。このまま涎掛けを首に巻いていたら、もう少しで涎掛けの布が今にも侵食された箇所に直接触れてしまいそうだ。もう涎掛けを首に巻く事すら出来ない。それほど腐敗が進行してしまった。

 

 この先、本当に、どうなってしまうのか?夜、十二時前、ぺいは、ベッドの上にいる。うつ伏せで目は閉じた状態で辛そうにしている。もう完全に下顎がない状態で上顎が直接ベッドに接している。それで、舌は完全に折れ曲がって百八十度逆向きに反り返っている。本当に痛々しくて見ていられない。そんなぺいの様子を注意深く気にしていると、「うぅ~」という小さくて苦しそうな声が聞こえてきた。「苦しいよぉ~、まだ生きてたいよぉ~」そう私には聞こえた。私は、思わず「ぺぃ~」と、小さい声で応えてやった。この時、私が小さい声で応えた理由は、ぺいの苦しさも気持ちも全部分っているよ。今、ぺいの傍で寄り添っているよ。ぺいの全てを温かい気持ちで包んでいるよ。そんな思いだった。もう、手で撫でてやる事も、ぺいの名前を普通に声に出すことも出来ない。それほどまでに容態は悪化している。だから、私は、ぺいの声に応えて、やさしく返事を返してやる。それが、精一杯の出来る事だった。