「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との戦い~

2014年3月 愛猫「ぺい」に、突然、癌が宣告されました。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見て頑張った記録です。
ありのままの事実を、感じた事を全て残しておくことにしました。

八月十九日(火)

 昨晩は、今までで一番徘徊が酷かった。夜中の間、ずっと、三十秒置きぐらいの感覚で一晩中ベッドに上がったり床に下りたりを繰り返していた。ベッドに何度も上がってくるという事は、本当は寝不足で、ゆっくり眠りたいのだろう。でも、痛くて苦しくて、じっとしていられないに違いない。ぺいがそんなもんだから、私も身体が重い。連日、良く眠れなくて寝不足が限界点にまで達してきた。でも、ぺいと比べれば全く問題ではない。ぺいは必死に踏ん張って頑張っている。私が睡眠不足なんかで弱音など吐ける訳がない。そう自分に言い聞かせて身体に鞭を打って出掛ける事にした。

 そうして、日中は、あえてぺいの事を一時的に忘れる為にも仕事に没頭して、仕事を終えると家路を急いだ。そして、玄関の扉を開けるなり余りの酷い状態に自分の目を疑った。何と水場の水が血で真っ赤に染まっている。外出する前に綺麗な水に取り替えていたのに、まさに血の海。ぺいは、その血で染まった水に上顎を沈めている。大丈夫か?大丈夫な訳がない。人間でもこんなに出血したら大変だ。それが人間よりも身体の小さい猫がこんなに出血している。尋常ではない。ひとまず、水を直ぐに綺麗な水に交換した。すると、ぺいは綺麗な水の中に顎を浸けた。すると、見る見るうちに水が血で染まってゆく。そして、暫くして水を見てみると、また真っ赤に染まっている。それにしても、まだ水を取り替えてから五分ほどしか経っていない。私は、その後も水が真っ赤になる度に五回程だったと思うけど綺麗な水に交換した。でも、水は直ぐに血で染まってしまう。本当にキリがない。そんな事を思いながら水を取り替えていると、ぺいが水場から離れた。そして、部屋の中に移動してフローリングの床の上に横たわった。それであればと、私も部屋の中に移動して、その後、パソコンデスクに座ってインターネットを見ながら過ごす事にした。すると、突然、背後から聞きなれない音がした。何かと思って振り返ってみると、ぺいが床からベッドの上に上がろうとしたみたいで、音はジャンプに失敗した時の音だった。ベッドの高さは床から三十~四十センチぐらい。だけど、たったそれだけの高さなのにジャンプ出来なかった。そして、ジャンプに失敗した時に、ベッドの上に敷いてあったタオルに前脚の片方の爪を引っ掛けてしまいタオルとともにベッドと床の間で宙ぶらりんの状態になっている。ぺいはこちらを向いている。私は、直ぐにぺいと目が合った。気のせいか凄く気持ちが通じ合えた気がした。私は、やれやれ、仕方ないなぁ~と思いながら直ぐに前脚の爪からタオルを外してやった。ぺいは、自分の状態が不甲斐ない事を百も承知していたように思う。そして、それを見た私が、直ぐに手を差し伸べてくれる事も分っていたように思う。目が合った時、何か感じるものがあったのは、そういう事なんだろうと思えた。

 その後、ぺいは、ベッドに上がるのを諦めた。そして、それなりに時間が過ぎた。その後、私は、ベッドの上に移動してテレビを見ていた。すると、立ち上がろうとするぺいの姿が視界に入った。だけど、今度は、足腰が砕けるような感じで、突然、その場に倒れてしまった。何がどうしたのか?ぺいは、自分の身体に起こっている事や、自分の身体が思い通りにならない事が少し不思議そうだった。そうして、暫くすると気を取り戻せたのだろう。再び立ち上がろうとした。今度は何とかふらつく事もなくすくっと立つことが出来た。立ち上がれたぺいは水場の方に歩いていく。でも、酔っ払いのように、フラフラしていて真っ直ぐに歩けていない。身体が左に逸れながら歩いているかと思えば、今度は右側に逸れながら歩いている。一体どうしたというのか?もう、これは、本当にいよいよ危ないと思った。これから先、体の自由が利かなくなったら水場にも砂場にも行けなくなってしまう。思ったように動けなくて寝たきりになってしまったら、どう暮らしていけというのか?私は、以前、最期は、バスルームの中だと思っていた。だけど、もうそれは絶対にないなと思った。なぜなら、バスルームに入るには、床から二十センチ程ある段差を越える必要があるからだ。こんなにフラフラしていたら越えるのは無理だ。

 それと、もう一つ。この日、もうやめようと思った事がある。それは、ぺいの写真や動画を撮るという事だ。ぺいが癌になってから、写真や動画を撮ってきた理由には、心のどこかで奇跡を信じていたというのもあった。でも、もう本当に危ない。そもそも、今までは差し迫った命の危険を感じる事はなかった。こんな状態になったぺいを撮影するなんて、もう精神的に絶対に無理。絶対に。そう思った。