「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

初七日

あれから一か月が経った。大切な月命日は、秋分の日で祝日という巡り合せ。これも偶然なのだろうか?とにかく、仕事は休日で休みだから、一日中、ぺいの事だけを考えて過ごせるという事が凄く嬉しかった。まずは、朝、花屋さんが開店する時間を待った。そして、十時を回ったので、早速、出掛けた。今日は、特別な日。そうだ。ぺいに美味しいものを食べさせてやりたい。出掛け際、そう思った。ぺいは、どんな物を買って帰ると一番喜んでくれるかな?自転車を走らせながら考えた。やっぱり、一番のご馳走は刺身だよな。そう思うと、ぺいが刺身を喜んで目の色を変えながら食べてくれる様子が頭に浮かぶ。そこで、花屋の前に鮮魚店に立ち寄ることにした。目的の刺身を手にして、会計でレジに並んだ時、ぺいが喜んでくれる、そう思うと凄く嬉しかった。それで、今度は、本来の目的であった花屋に向けて自転車を走らせた。月命日という日は、大好きだったぺいの特別な日なので、花屋では、その事をイメージしながら生花を選んだ。自宅に戻って花を花瓶に挿していると母が到着した。今日は、昼頃に来るという連絡をもらっていたから予定通りだ。今日も母は何か持ってきてくれたようで、いつもの軽く湯通しした肉と、なぜか、おはぎ。ちなみに、おはぎは、お供え物で、今日、ぺいの事を偲んだ後に、私と一緒に食べようと思って買ってきたそうだ。私は、早速、偲ぶためのセッティングを始める事にした。まずは、ぺいが旅立った場所に骨壺を移動した。そして、その横にぺいが写っている写真立て、それらの後ろに生花を挿した花瓶、骨壺の前には、仏具と母が持ってきてくれた肉とおはぎ、それと、初七日に買っていたカニカマと、今日買ってきた刺身を置いた。これで、全て準備完了だ。

 

ぺいが危篤になった時刻は、十三時。旅立った時間は、十三時半だった。だから、十三時と同時にロウソクと線香に火を点けて、母と一緒に目を閉じて手を合わせた。これから十三時半までの三十分という時間は、ちょうど今から一か月前、ぺいが、もがき苦しんでいた時間になる。あの時の記憶が鮮明に蘇ってくる。私は、それから三十分、殆ど無口で、ロウソクや線香が次第に短くなってゆくのを時折見つめながら過ごした。もちろん、母も口数が少ない。そして、一本目のロウソクが燃えてなくなったので、時計を見て見る。まだ、ぺいが旅立った時刻になっていない。私は、ロウソクの二本目に火を点けた。そして、二本目のロウソクが燃え尽きた時、もう一度、時計を見てみる。すると、十三時半を秒針が少し過ぎたところだった。それは、あの紛れもなくぺいが旅立った時刻と一緒だった。あまりにもピッタリだ。また、我々に味方してくれる何か神様の見えない力のようなものが働いているような気がした。私は、直ぐに新しいロウソクを用意して、また急いで火を点けた。今度は、三本目のロウソクという事になる。でも、もう既にぺいが旅立った時間を過ぎている。そもそも、ロウソクは、ぺいが旅立った時刻までの予定だった。だから、本当は、三本目のロウソクに火を点ける必要なんてなかった。だけど、ロウソクの火が偶然だとしても、ぺいが旅立った時刻と同時刻に消えた事が、どうしても気になった。それは、ぺいの命の燈火と、ロウソクの燈火がダブっているように感じられたからだ。そして、その偶然を、どうしても素直に受け入れる事が出来なかった。せめて、ロウソクの燈火ぐらいは、現実とは違っていてほしい。だから、私は、衝動的に三本目のロウソクに火を点けていたのだ。ロウソクに火を点けたところで、ぺいは生き返らない。勝手にぺいの死とロウソクの燈火をオーバーラップさせた悪あがき。それだけ、ぺいの死を受け入れられなかったのかもしれない。ただ、もし、このまま、現実を直視しないでいたら、ぺいは、死んだというのに、これから先も、死んだという事を認められずに過ごす事になってしまう。もし、そうしたら、きっと、ぺいは、死んだというのに死にきれずに浮かばれないのではないだろうか?私は、ぺいの事が大好きだ。だから、とにかく、ぺいが一番幸せになれるようにしたい。それが、何よりも優先すべき事。そして、それこそが、私の一番の幸せ。そんな事を思うと、衝動的に火を点けてしまった理由を何か別の理由にしなければならないと思った。そうだ、これは(三本目のロウソクは)、ぺいが天国という場所で新たなスタートを切るという意味の燈火にしよう。天国では、また幸せに元気で暮らせよ。私は、再び明るく燃える炎を見ながら、あらためて手を合わせた。そうして、三本目のロウソクも消えた。これで、月命日という特別な日は、ぺいの事を偲んで、天国での幸せも願う事が出来た。きっと、ぺいも喜んでくれたはずだ。ぺいが尻尾を左右に振ってくれている。そんな様子が頭に思い浮かんだ。良かった。本当に良かった。嬉しいよ!ぺい。 

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