「神様からの贈り物」

~扁平上皮癌との闘い~

まだ数年は続くと思っていた、愛猫「ぺい」との平凡な日常。
しかし、その後の誤診と突然の癌宣告...。
それでも、再び元気になれる奇跡を一緒に夢見た記録です。

引っ越し

ぺいが旅立ってから二か月。トイレの砂、食器、爪研ぎ・・・、ぺいが使っていたものは、そのままで、何一つ動かさないでいた。なぜなら、一つ一つ全ての物が、ぺいの一部のような気がして、ずっと、このままにしておこうと思ったからだ。もちろん、それらを目にすると。当然、寂しさを感じる事もあった。ただ、もしかしたら、ぺいの魂は、まだ、この部屋の中にいるかもしれない。もし、そうだったら、何か一つでも片付けてしまうと、ぺいを悲しませてしまう。そんな事を思って、そのままにしていたというのもあった。

 

ところで、ぺいと一緒に暮らしてきた部屋は、もう入居してから十四年。随分前から経年劣化が目立つようになっていた。それと、ここに引っ越してきた当時は、駅から近い割には静かで住みやすい環境だったというのに、今では、深夜の時間帯が一番騒がしいという状態。そこで、数年前、真剣に引っ越しを考えた。でも、残念ながら、犬とならまだしも猫と一緒に暮らせる賃貸物件というのは本当に少ない。もし存在したとしても、駅から遠い場所だったり、築年数が相当古かったりするので諦めていた。でも、もうぺいはいない。だから、直ぐに引っ越しする事も不可能ではない。だけど、一ヶ月程前から悩んでいた。それは他でもない。ぺいと長年暮らしてきた思い出の詰まった部屋から出てゆく事に迷いがあったからだ。でも、理由はもう一つあった。それは、もしかしたら、ぺいの魂が、まだこの世にいるかもしれない。そうしたら、この部屋に戻ってくるかもしれない。そして、もし、その時、他の人が住んでいたら困惑してしまう。そんな事も気になったからだ。そもそも、猫は、住み慣れた場所が、一番心地良いに決まっている。それなのに、引っ越しで遺骨を移動させてしまったら落ちつかないだろう。そんな事も考えた。そうして色々考えていると、今、別に無理に引っ越さなくても、また一年先ぐらいに考えれば良いかなとも思った。ただ、その一方で、部屋の契約更新まで、残り八か月という事もあった。それと、新年は、半ば強引にでも新しい場所で新たな気持ちで迎えた方が良い気もした。それで、本当に色々な事を考えた上で、最終的には、年内の引っ越しを決めた。

 

そして、そう決めた以上、早速、新しい物件探しと、部屋の中の整理を始めた。まずは、そのままにしていたものの一つで、一番片付けが大変なトイレからだ。猫砂も入ったままなので、まずは、猫砂をすくって袋に詰める事にした。すると、砂の中から、一・五センチぐらいのウンチが一つ出てきた。たまたま、回収しきれずに残っていたものだ。もう、随分、月日が経って乾燥して固くなっている。そういえば、ぺいが元気な時、ウンチは、元気のバロメーターだと思えて嬉しかった。でも、今となっては、ぺいの一部に思えて愛おしさすら感じてしまう。どうしよう?いつものように捨ててしまおうか?でも、もし、このまま捨ててしまうと二度と取り返しがつかない。結局、ウンチは、ラップに包んで、仏壇の引き出しの中に保管した。そして、また、別の場所には、ぺいが元気な頃、良く寝て過ごしていた寝床に抜け毛を見つけた。この寝床は、クローゼットの奥の高い場所で、日頃は、目にもつかなくて掃除なんてしていなかった場所だ。猫は本当に良く毛が抜ける。そんな抜け毛は、服にも纏わりつくので無用の長物だった。でも、そんな毛が、今は、貴重なぺいの一部に思えて、本当に愛おしい。そっと、見つけた抜け毛を集めるとボール状になった。触ってみる。この感触。もう二度と触れる事なんて出来ないと思っていた感触だった。昔、ぺいを撫でていた時に手に感じていたこの感触。本当に懐かしい。もう二度と感じられないと思っていた感触。ぺいが突然、この世に戻ってきてくれたような気がして凄く嬉しくなった。そうだ。この毛さえ保管しておけば、いつでも、大好きだったぺいに触れる事が出来る。いつでも、あの頃に戻る事が出来る。あれほど無用の長物だと思っていた抜け毛なのに、今は、その毛に触れられるという事が凄く嬉しい。でも、思えば、そもそも、こんなに嬉しく思えるって事自体、ぺいと出会えた事に感謝だ。一度きりの人生で、このように思える存在に出会えた事自体、凄く幸せなんだと思える。ぺいありがとう。ありがとうな。この抜け毛も絶対に大切に保管しておこう。そう強く心に決めた。そして、さらに抜け毛をかき集めた。この毛は、ぺいそのもので、ぺいの分身でもあるのだ。これは、唯一無二で一番の宝物になる。何か抜け毛を入れられる良い入れ物はないか探してみると、ちょうど良いサイズの小さい透明のケースを見つけた。これは、何の入れ物だっけな?全然思い出せない。でも、毛を入れるには、ちょうど良い。そして、その見つけたケースに毛を詰めて、そのケースも、仏壇の引き出しの中に納めた。

 

そうして、部屋の整理を始めて数日、大体の整理が終わった。それにしても、部屋の中には、思っていた以上に、ぺいに関するものが多かった。爪研ぎ板や、一緒に遊んだおもちゃ・・・。もう、全部不要といえば不要なものだけど、ぺいが使っていたものだと思うと、何一つとして捨てる気になんてなれなかった。そこで、どんなに細かいものでも、引っ越し用の大きな箱に詰めて、引っ越し先に全て持って行く事にした。ただ、トイレは大きくて同じ箱には入りきらなかったので、トイレは、さらに別の箱に入れて一緒に持って行く事にした。

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